埼玉県RSウイルス流行監視WGからのお知らせ


 2024年はRSウイルス感染対策に関して、大きな変革の年になりました。一つはパリビズマブ(シナジス®)に5疾患群(肺低形成、気道狭窄、先天性食道閉鎖症、先天代謝異常、神経筋疾患)が3月、保険適応疾患に追加されたこと1)、二つ目はRSウイルス重症化リスクを有する児を対象にした長期間作用型のモノクローナル抗体製剤ニルセビマブ(ベイフォータス®)が国内製造販売承認され、 5月22 日に発売されました2)。さらに近日中に移行抗体で乳児を守る妊婦へのRSウイルスワクチン、アブリスボ®が発売予定3)です。

 選択肢が増えたことはメリットもありますが、誤投与も含めた医療事故には十分に気を付ける必要があります。シナジスとベイフォータスには使用するうえで2つの違いがあります。一点目は新しく適応になった5疾患群はシナジスに適応はありますが、ベイフォータスには適応がありません。二点目はベイフォータスは慢性肺疾患などの合併症がない早産児に関しては流行1シーズン目しか適応がないことです。 両薬剤が混在する初めてのシーズンでは臨床現場での混乱が予想されるため、以下に埼玉県RSウイルス流行監視WGとしての見解を述べます。医療機関ごとに、患者さんに対していずれの薬剤を投与するかを十分に検討していただくことをお願いいたします。

(1)現時点においてシナジス、ベイフォータス両者の有効性、および 安全性に優位性はなく、いずれも選択可能であると考えます2)。また、日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会から、日本におけるベイフォータスの使用に関するコンセンサスガイドライン4)とQ&A5)が出されており、詳細は参考資料を参照してください。
(2)WGの意見としては混乱を防ぐため、現在シナジスを投与されている児に対して2024年シーズンは継続してシナジスを投与してください5)。また、新規退院する児にベイフォータスあるいは、シナジスを選択されるかは施設の判断に委ねることにします。
(3)2024 年シーズンはシナジスの標準的な投与期間(4 月~11 月)と 同様に、11月までをベイフォータスの投与可能期間とします。11 月以降での投与は、地域での流行状況や児の重症化リスクを勘案し、症例毎に投与の妥当性を判断し、その理由等に関するコメントもしくは症状詳記の記載をお願いします。
(4)投与の記録を母子健康手帳などにわかりやすく記載してください。

 また、ベイフォータスは50mg0.5mL1筒:459,147円、100mg1mL1筒:906,302円、とⅠ筒あたりの薬価が高く、今シーズンは医療連携でお願いしていた一次医療機関での投与が難しいことも予想されます。償還払いの問題を含めて、状況を慎重に見極めていくことが必要です。
 今シーズンと来シーズンは投与に関して混乱が予想されます。繰り返しになりますが、添付文書、コンセンサスガイドラインを詳細に見ていただき、医療機関ごとに患者さんに対していずれの薬剤を投与するかを十分に検討していただき、誤投与のなきよう対応いただくことをお勧めします。
 尚、状況が流動的になる可能性もあり、適宜WGより情報の発信に努めます。
ご意見ご質問は地方会事務局(inq@jps-saitama.jp)にお寄せください。必要に応じWG内で検討の上回答いたします。

埼玉県RSウイルス流行監視WG
大山昇一、國方徹也(文責)、小島拓朗、小林敏宏、菅沼栄介、清宮綾子、側島久典、細野茂春、峯眞人、森脇浩一